「ありがとうございました、薫様。とってもいいお湯でした。」
夜も遅くなり、葵は薫のアパートに泊まっていくことになったのだが、部屋に女の子を泊めたことなどない薫はドギマギしっぱなしだ。布団は一組しかないので、自分はその辺で適当に寝るから、布団で休むよう葵に言うが、
「その…、薫様さえよろしければ、私ご一緒でも構いませんけどぉ…。」
外に頭を冷やしに出る薫は、
「許嫁ったって、俺、葵ちゃんのこと、子供の頃しか知らないし…。でも悪いコじゃないんだよな、葵ちゃん。メチャメチャかわいいし、性格だって…。」
しかし葵を受け入れることは、かつて自ら飛び出した花菱の家に戻されることを意味していた。薫の脳裏にかつてのつらい記憶が蘇る。