「あれ不可よ 原作があるじゃないかね」
ここは場末のキネマ館。少女たちが真剣に見入っているのは、原作つきの話題作だ。カラカラと乾いた音を響かせて、映写機はスクリーンに夢を映し出す。物語に没頭するひとときは、疲れきった彼女たちの心をほんの少しだけ無邪気な幼女の頃にタイムスリップさせる…と思いきや。
「原作より面白かったら、原作者に失礼だろうが!」
「原作通りに作ったのだから仕方ない」と叫ぶ謎の映画監督。怒りに震える少女たちを尻目に、彼は望とともに薄暗い夜道へと消えた。「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」耳鳴りのように疼く心の声に耳も貸さず、2人の影は遠くなるばかり…。
「永眠が叶わぬなら、せめて冬眠くらい…」
少女たちとコタツを囲んで仲良く午睡する望は、暖かな一酸化炭素に包まれて安らかに眠る…。…って、眠っちゃダメダメ! 間一髪で集団自殺を免れて生きる喜びを思い知った望だったが、この後さらに訪れる惨劇を知るはずもなかった…。